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名古屋高等裁判所 昭和25年(う)1244号 判決

被告人

野尻宮雄

主文

原判決を破棄し本件を岐阜地方裁判所に差戻す。

理由

職権を以て調査するに原判示二、の犯罪事実に対応する起訴状の記載は昭和二四年五月六日附起訴状の公訴事実第二の(一)であつて「被告人両名(野尻宮雄、杉山一郎)は共謀の上昭和二四年二月下旬頃二回に亘つて同郡(郡上郡)相生村稲成飲食店藤掛こよ方で代金支払の意思が無いのに恰も支払うものの様に装つて同人を欺罔し合計千八百円相当の酒食を提供させて之を騙取した」というのである。又原判示三、の犯罪事実に対応する起訴状の記載は前同公訴事実第二の(二)であつて「被告人野尻宮雄は同年三月上旬頃より同月中旬頃迄の間に三回に亘つて右藤掛こよ方で(一)同様代金支払の意思が無いのに支払うものゝ様に装つて同人を欺罔し合計約四百二十円相当の飲食を提供させて「之を騙取し」たというのである。即ち右起訴状の記載によれば(一)については「二回に亘り」、(二)については「三回に亘り」無銭飲食をしたというのである。而して原審検察官がその立証として提出した藤掛こよの司法警察員及び検事に対する各供述調書の記載によれば同人は野尻宮雄等に対し昭和二四年二月二、三日頃代金五百円位相当の飲食物を提供し更に五、六日後に代金三百円位相当の果物類を提供した外野尻宮雄に対し、同年三月五、六日頃代金二百八十円位相当の菓子等を、同月十五日頃代金百三十円位相当の菓子果物等を、翌十六日頃代金九十円相当の羊羮を提供した事実が認められる、してみると右起訴状記載の訴因は(一)については二個、(二)については三個であるようである。尤も二回に無銭飲食をしても、三回に無銭飲食をしてもそれが一個の犯罪事実である場合がないとは限らないがそれは普通の場合ではない。何等特別の事情ない限り、日時を異にして数回に亘り無銭飲食をする場合には仮令犯人並に被害者が同一人であつても数個の犯罪を構成するものと解する。而して本件記録上は数回に亘る無銭飲食の事実を一個の犯罪事実と認めるような資料はないのであるから、原審が右起訴状記載の(一)、(二)の訴因の個数につき検察官に対して釈明を求め以て訴因を明らかにすることなく、漫然原判示二、三掲記の通り各一個の犯罪事実として判示したのは理由不備の違法があるといわざるを得ない。

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